
プロローグ
あるとき、撮影の現場で設計者の方がふとこんなことを言いました。
「僕たちの建築は“かたち”だけじゃなくて、“考え”も伝えたいんです」
建築には、語るべき美しさがあります。そして、果たすべき役割があります。
写真を撮る人として、建築を“作品”として届けたいと思う気持ちと、
経営者として、建築が社会の中で“選ばれる”ように撮りたいという願い。
この二つの思いの間で、僕たちは日々撮影に臨んでいます。
1. 作品を伝えるということ
建築写真は、ただの記録、竣工写真という役割は小さくなっていっていると感じています。
建築の意図が1/1スケールで立ち上がっている意匠を写真で表現し、誰かに伝わり、感情でも記憶でも足でも動かせるように努めています。
そのために、私たちは可能な限り対話を重ね、建築の「文脈」を知ろうとします。
そして良い建築写真のいくつかは、正確に建築を伝えた上で、設計者が気づかないまだ見ぬ建築の素晴らしい側面を捉えたものなのかなと感じています。
2. ビジネスを勝たせるということ
一方で、建築は“使われてこそ”価値を持ちます。
商業施設、ホテル、飲食店、オフィス… どんな建物も、それが多くの人に届き、選ばれ、愛される必要があります。
写真はその「入り口」になれると信じています。
見た瞬間に「行ってみたい」「ここで働いてみたい」と思わせる。
求人や広報、ブランディング、賞への応募まで。
写真がもたらす“経済的な効果”は、見た目の美しさだけでは計れません。
建築の中に流れる“物語”を、経済の中に織り込む。
それが、写真ができるもう一つの仕事です。
3. 二面性の中で、大切にしていること
僕たちが撮る写真は、ただ美しいだけでも、ただ説明的なだけでもいけないと思っています。
作品としての佇まいと、リアリティ。
その両方を一枚の中に同居させられるよう、考えながら撮影しています。
同じ日に、写真と動画を撮影するようにしているのも、そんな想いの表れです。
天候やライティングの一貫性を保ちながら、作品としてのまとまりを意識する。
動画では、建築の「時間」や「流れ」を伝える。
一枚では語りきれない、設計の“奥行き”を、映像で補完する。
どちらも欠けては伝えきれないものだと思っています。
まとめ
建築写真には、二つの顔があります。
「作品を伝えるために」と、「ビジネスを勝たせるために」。
私たちは、そのどちらにも真剣です。
写真家として、職人のように建築に寄り添い、
経営者として、プロジェクト全体の成果に貢献できる一枚を目指す。
そうすることで、以前撮った建築が何年後も変わらず使い続けられている、そして建築業界にも影響を与えている建築だと認知される、そんな未来を目指していきたいなと思っています。