プロローグ
建築写真においてライティングは建物の形状や質感、そして空間そのものの表現に大きな影響を与える要素です。光がどのように建物に当たるかによって、その建物が持つ印象や雰囲気が大きく変わります。自然光、人工光、あるいは両方の光を効果的に使い分けることが建築写真家にとっての重要な技術となります。
この記事では建築写真におけるライティングの基本的な考え方と、その活用方法について探っていきます。
1. 自然光を活かすライティング
自然光は建築写真の基本となる光です。建物は通常、自然光を意識して設計されているため自然光を効果的に活用することで、その建物の本質をより正確に捉えることができます。
- 時間帯による変化
太陽の位置によって光の角度が変わるため、建物の表情も刻々と変わります。早朝や夕方の低い角度からの光は、建物に長い影を落とし、立体感を強調します。一方、正午の強い直射光は、影を最小限に抑え、建物のディテールを均一に映し出します。撮影の目的に応じて、適切な時間帯を選ぶことが大切です。 - 曇りの日の光
曇りの日は、光が雲に遮られて拡散光となり、柔らかく均一なライティングが可能です。影が少なく、建物の質感を均一に撮影できるため、ディテールをしっかりと捉えたい時には最適です。ただし、コントラストが少ないため、立体感が弱くなることもあります。
2. 人工光の役割とその使い方
人工光を使うことで自然光が不足する環境や夜間の撮影においても、建物の美しさを引き出すことができます。特に内部空間の撮影では人工光が欠かせない場合が多くあります。
- スポットライトや間接照明
特定の部分を強調したい場合にはスポットライトを使ってポイントを照らすことが効果的です。また間接照明を活用することで柔らかな光が空間全体を包み込み、落ち着いた雰囲気を作り出すことができます。 - 建物自体の照明設計を活かす
建築家やデザイナーが意図して設置した照明を尊重し、それを最大限に引き出す撮影が重要です。例えば、外部照明や内装に組み込まれた照明は、建物の設計意図を伝える重要な要素となります。そのため、照明デザインの理解も不可欠です。
3. 自然光と人工光の組み合わせ
最も効果的なライティングを実現するためには、自然光と人工光のバランスを取ることが重要です。この2つを適切に組み合わせることで建物の多様な側面を引き出すことが可能です。
- 日中の窓からの自然光と室内照明
自然光がメインの光源となる場合、人工光を補助的に使って陰影を調整します。例えば、窓からの強い光が差し込む室内では、逆光によって暗くなりがちな部分を人工光で補うことで、全体のバランスを保つことができます。 - 夕暮れや夜間の撮影
マジックアワーや夜間の撮影では、外部からのわずかな自然光と建物の照明が組み合わさることで、幻想的な雰囲気を演出できます。夜間の建築撮影では、照明デザインが際立つため、建物の設計意図が最も効果的に表現される瞬間です。
4. 光の質と方向を意識したライティング
光の質(ハードライト・ソフトライト)や方向(順光・逆光・サイドライト)を意識することが、ライティングの質を向上させます。
- ハードライト vs. ソフトライト
ハードライトは建物のエッジを強調し、ディテールを鮮明に捉えます。一方、ソフトライトは光が均一に拡散され影が少なく柔らかな印象を与えます。どちらの光を使用するかは、撮影する建物の特性や撮影意図によって使い分けます。 - 光の方向と影の使い方
順光での撮影は、建物全体を均一に明るくするのに適していますが、立体感に欠けることがあります。一方、サイドライトや逆光を使うと、建物の影が強調され、より立体的な写真を撮影することができます。影をどのように利用するかによって、写真にドラマチックな効果を与えることが可能です。
5. ライティングにおいて師匠たちから教わってきたこと・実際撮影してきて感じること
「日中に人工光を使うのは本来邪道。自然光のみで撮影することが基本。」
と教わりました。教えていただいた当時はデジタルカメラ移行後だったのもあって、すでに混合光で撮影することが多くなっていました。照明は自然光を補うかたちでライティングをするか、夜にライティングをして撮影することがほとんどでした。この考え方はまずは自然光を読み、人工光でライティングするときの基本になっています。
「外観の夕景撮影で良い仕上がりになる時間帯は数分しかない。」
これは自然光と人工光のバランスが取れている時間帯です。編集すればある程度どうにでもなることはわかっていますが、不思議とあまり編集を加えない写真の方がいいと感じるのです。
「空間のライティングは、明暗のリズムをつくること。手前は暗いこと。」
設計にもよると思いますがフラットな光の空間はつまらなくなりやすいです。色彩にコントラストがあったり、フラットでも統一感があったりしないと成立しない場合があります。なので既存照明の調整や、ライティングをすることで明暗差をつくり奥行きや目線誘導がおこるようにします。また建築写真をよく見ている方はわかると思いますが、写真の手前側、カメラの近くが明るく奥が暗くなっている写真は最悪です。これは経験も含め、計画された構図でない限り絶対条件と言えます。
これらは写真の質を上げてくれる基本的な考え方だと思っています。
まとめ
建築写真におけるライティングは建物の魅力を最大限に引き出すための非常に重要な要素です。自然光と人工光をバランスよく使い分けることで、建物の意匠や機能を効果的に伝えることができます。光の質や角度、そして影の使い方に細心の注意を払うことで、建物が持つ本質を写真に表現することができるでしょう。これからもライティングの技術を駆使して、建築の美しさを引き出す写真を撮り続けていきたいと思います。