プロローグ
建築写真はリアリズムを追求する一方で、デジタル編集を活用することでその魅力をさらに引き出すことが可能です。しかし編集によって建物本来の姿を過剰に変えてしまうと、建築の本質が損なわれる可能性もあります。
この記事では建築写真におけるデジタル編集の役割とリアルな表現と創造的な表現のバランスをどのように取るかについて考えてみます。
デジタル編集の役割
デジタル編集は、建築写真において非常に強力なツールです。明暗の調整、色彩の補正、レタッチによる不要な要素の削除など、現実では難しい調整を加えることで、写真をより魅力的にすることができます。以下のような場合、デジタル編集が役立ちます。
- 光の調整
- 撮影当日に天候が思わしくない場合や、現場の照明が十分でない場合、デジタル編集を用いて光のバランスを整えることができます。ハイダイナミックレンジ(HDR)を使って、明るすぎる部分と暗すぎる部分を適切に補正し、自然な光を再現する手法は一般的です。
- 色の補正
- 建物の外壁や内装の色が、特定の光源の影響で意図しない色合いに見えることがあります。ホワイトバランスの調整や、特定の色彩を強調することで、建物の本来の色味を復元しつつ、視覚的なインパクトを高めることができます。
- 不要な要素の除去
- 建物周囲にある電線や看板など、視覚的に邪魔な要素をデジタル編集で取り除くことも可能です。これにより、建物のデザインがよりクリアに際立ち、写真としての完成度が高まります。
デジタル編集の限界
一方で編集を過度に行うと建物の本来の姿から乖離してしまうリスクもあります。建築写真においては、「現実を捉える」という基本的な目的が重要です。以下の点に注意することが求められます。
- 過剰なレタッチのリスク
- 例えば実際には存在しない影や光源を追加したり、建物のラインや素材感を修正しすぎたりすることで、建物のデザインが本来とは異なる印象を与える場合があります。建築家やクライアントにとって、こうした変化はブランドや設計意図を歪める結果となる可能性があります。
- 「美しすぎる」リアリティの危険性
- デジタル編集によって完璧すぎる画像を作り上げると、実際の建物を見たときに「ギャップ」を感じる可能性があります。写真があまりにも理想化されていると、クライアントや訪問者に現実的な期待感を持たせられなくなります。
バランスの取れた編集とは
デジタル編集を効果的に使いながら建物のリアルさを保つためには、いくつかのポイントを抑える必要があります。
- 自然な色調と光の調整
- 編集の基本は現実に即した色彩や光を再現することです。極端に彩度を上げたり、コントラストを強めすぎないように注意し、あくまで建物が実際にどう見えるかを念頭に置いた編集を行います。
- 現場での正確な撮影を重視する
- デジタル編集に頼りすぎる前に、現場での撮影に最大限の工夫を凝らすことが重要です。自然光や人工光を適切にコントロールし、理想の光と影を捉えるための時間やアングルを考慮して撮影することが編集の手間を減らし、より自然な仕上がりを生むための鍵となります。
- 編集と自然のバランスを取る
- 写真編集の際には、あくまで「補正」にとどめる姿勢が大切です。意図的に強調したい部分や見せたいディテールはあっても、それが建物全体の印象を損なわないように編集はほどほどに留めることが肝要です。
まとめ
建築写真におけるデジタル編集は、建物の美しさやデザイン意図をより効果的に伝えるための強力なツールです。しかし編集によって現実を超えてしまわないようにすることが、重要なポイントだと感じています。リアリズムと創造的な表現力のバランスを取りつつ、建築写真の魅力を最大限に引き出すための技術と視点を磨いていくことが建築写真家の腕の見せ所と言えるでしょう。
ブランディングにおいては「雰囲気」をとても重要視されています。雰囲気を出すために感情的な光のタイミングやライティングで表現することはありますが、ものそのものを極端に編集することは設計意図から外れてくると思います。それをしてしまうと、写真と現実が全然違うという感想を持たれてしまう危険性が出てくるため撮る側としてもクライアントの要望を可能な限り受け止めつつ提案していく必要があると思います。
以上を踏まえ私たちはこれからもリアリズムを保ちながら、建築の魅力を引き出す写真を追求していきたいと思います。