プロローグ
建築写真は、建物のデザイン、美しさ、機能を視覚的に捉え、その魅力を伝えるための強力な手段です。しかし、その本質を理解し、効果的に表現するためには、いくつかの基本的な技術と考え方が必要です。本記事では、建築写真を撮影する際の光の使い方や建築を捉えるための基本的な考え方について考察します。
建築写真における機材:前提条件・シフトレンズ
建築写真ではシフトレンズが必須の機材になります。建築写真は水平垂直が合っている写真が基本となり、撮影の際それを合わせた上でシフトレンズはパースをコントロールすることができます。また建築写真でよく使われる広角レンズはパースが強くなるので、緩和させたり強調させたりする技術が必要になってきます。撮影後編集することもできますが、現場で完成していないアングルの写真は、設計者とのコミュニケーションや質に問題が発生する可能性が高まるので危険だと感じます。パノラマ合成など特殊な編集が必要でない場合は、納品する写真のアングルと撮影時のアングルはあまり変化しない方がクライアントは安心します。下記記事はシフトレンズを使う前提の話になります。
光の重要性:自然光と人工光の使い分け
建築写真において、光は最も重要な要素の一つです。建築写真の基本的な考え方として、「建築」を撮影するときは自然光。「インテリア」を撮影するときは人工光という考え方があります。これは設計密度の差から生まれると感じており、これは以前のカメラの性能と設計者が見せたい部分が強調される光はどういうときなのかと考えられています。現在ではカメラの性能も向上しているので、設計の範囲に合わせて対応できるので、ミックス光で撮影することも多いです。
光の使い方によって、形状、質感、そして空間の雰囲気が大きく変わります。基本的に建築写真では自然光が最も美しいとされていますが、光の時間帯や角度に応じた適切な光の選び方が求められます。
- 朝と夕方の光
朝と夕方の光は、特に建物のテクスチャーや形状を際立たせるのに適しています。柔らかく温かみのある光が建物に当たることで、影の部分が深まり、立体感が強調されます。この時間帯の光は、建物に豊かな表情を与えるため、ドラマチックな雰囲気を演出できます。
よくライティングの考え方の参考としてレンブラントの絵画が用いられます。俗にゆうレンブラント照明です。主題を際立たせつつ立体感をもった陰影をつくる参考になるので参照してみてください。 - 正午の光
正午の光は直射日光が強く、影が短くなるため、建物の構造やディテールを鮮明に捉えることができます。ただし、光が強すぎるため、建物が平面的に見えやすくなります。正午の光を活かす場合は、建物全体の明るさとコントラストを慎重に調整することが重要です。
正午の光は建築の外観を撮るのには建築を選んでしまうと感じています。内観では地面に反射した光が天井を照らすので、天井の構造美や装飾などを印象的にみせることに適しています。 - 夜間の光
夜間の建築撮影では、人工光が主役になります。街灯や建物内部の照明を活用して、建物の特定の部分を強調したり、全体の雰囲気をドラマチックに表現したりすることができます。長時間露光を使って光の軌跡を捉えることで、動きや動線を感じさせる写真に仕上げることも可能です。
夜は照明によって、建築の光り方が日中とは裏返る面白さがあります。建築自体が光っているという印象があるのでオブジェクトとしての美しさを追求できます。
構図と視点:建物をどのように捉えるか
建築写真において、構図の選定も非常に重要です。適切な構図を選ぶことで、建物の特徴を際立たせ、視覚的に強い印象を与えることができます。
- シンメトリー(対称性)
建物のデザインに対称性がある場合、シンメトリーを意識した構図を採用することで、建物の調和や秩序を強調できます。シンメトリーな構図は、特にクラシックな建物や宗教建築、公共施設の撮影に適しており、見る人に安定感を与えます。
シンメトリー構図は建築写真の基本です。対象までの距離とアングルの高さを調整して写真に主題を設けることで見せたい設計を際立たせます。 - アシンメトリー(非対称性)
一方で、アシンメトリーな構図は、建物に動きやダイナミズムを与えます。非対称なデザインを強調することで、建物の個性や独自性を際立たせることができ、特にモダンな建築や実験的なデザインに向いています。
この構図では写真自体の平面構成が強調されます。印象としてはかっこいい・おしゃれなイメージを伝えやすいと感じています。建築を説明しすぎない、想像力を掻き立てる構図としても多用されています。 - 俯瞰とローアングル
俯瞰撮影では、建物全体を見渡すことで、その全容や周囲との関係性を捉えることができます。建築の建ち方が強調されること、人の目では見れないアングルの写真になるので印象的な写真になります。対照的に、ローアングルからの撮影は、建物の威圧感や高さを強調し、建物の力強さを表現します。ホテルやレストランなど天井の意匠設計が魅力的な空間、壁面の装飾を強調させるなどの使い方をします。
建物のディテールを捉える
建築写真では、建物の全体像を捉えるだけでなく、細部に目を向けることも重要です。ディテール撮影は、建築家がこだわったポイントや独特の素材感、工法などを際立たせる効果があります。
- マテリアルの質感
コンクリートの荒々しさ、木材の温かみ、ガラスの透明感など、建物の素材が持つ質感を強調することで、写真にリアリティと深みを与えることができます。特に自然光を活かした撮影では、素材のディテールを美しく捉えることができます。 - 細部のデザイン
階段の手すり、窓枠、ドアノブなど、建物の細部に焦点を当てることで、設計者の意図やデザインの精巧さを伝えることができます。これらの要素を効果的に撮影することで、建物全体の完成度やこだわりを感じさせる写真を生み出すことができます。
まとめ
建築写真を撮影する際には、光の使い方や構図の選定、ディテールの捉え方など、基本的な技術と考え方が重要です。これらの要素を組み合わせることで、建物の美しさや機能を効果的に伝える写真を撮影することができます。これからも、建築写真の基本を踏まえつつ、創造的なアプローチを取り入れながら、建物の魅力を最大限に引き出すことを追求していきたいと思います。