プロローグ
先日、少し変わった案件の依頼を受けました。それは「写真では建築の意匠が伝わりきらなかったため、補完する形で動画を制作したので、編集をお願いしたい」というものでした。普段は撮影から編集まで一貫して担当することが多いのですが、今回のように「編集のみ」の依頼は珍しいケースです。
ただしこれは非常に興味深い体験でした。というのも、他のカメラマンが撮影した素材をもとに動画編集を行うことで、私自身が撮影時に無意識に行っている構図やカット割りのクセや改善点が、客観的に見える機会となったからです。この記事では、そのケーススタディを通じて、建築を動画でどう表現するか、そして動画編集が建築の魅力をどのように補完できるかについて考えてみたいと思います。
依頼内容と経緯
クライアントはある建築物の写真撮影を依頼したものの、撮影した写真では建築の意匠や空間の広がりが思うように表現できなかったと感じたそうです。特に建物内部の空間の連続性が写真では伝わりにくく、写真だけでは建築家の意図を十分に表現できないことが課題でした。
施主の要望で動画の展開が難しいので、他のカメラマンが撮影された動画を未編集で保存していました。その状況が変わり、私に編集のみの依頼をしてくれたのです。
編集の目的と方向性
今回の編集の目的は写真で表現しきれなかった建築の魅力を動画で補完し、より総合的に建物の意図を伝えることでした。そのため以下のポイントを意識して編集に取り組みました:
- 空間の広がりを伝える 動線や視線の移動を意識し、カメラが動くときにスムーズに空間全体を見せるよう心掛けました。これにより、視聴者が実際にその空間を歩いているかのような臨場感を演出します。
- 建物の細部を強調する 建築の意匠が細部に宿ることを考え、ディテールショットを効果的に挿入。特にデザインのポイントとなるアーチやモールディング、階段の手すりなど、建築家がこだわった部分をピックアップし、繰り返し強調しました。
- ストーリー性を持たせる 空間の変化を感じさせるよう、建物内部から外部への移動や、朝から夕方にかけての光の変化を意識して映像をつなぎ、視覚的なストーリーを構築しました。
実際の編集作業と工夫
編集作業に入ると、いくつかの課題が見えてきました。
- 素材のクオリティやカットの問題 クライアントが自分で撮影した映像には、揺れや構図のブレ、カメラの動きが急すぎて画面酔いを起こしそうなショットが含まれていました。また、必要なショットが抜けている部分もあり、構成が途切れそうになることもありました。これを補うため、画面の安定化処理やカットのリズム調整を行い、映像の流れを滑らかにしました。
- フレーミングの調整 撮影者が意図していない場合でも、後からフレーミングを整え、建物の重要なラインや構造を引き立たせるように工夫しました。例えば、建物の柱やアーチが対称に見えるようにクロップ(切り取り)したり、映像の傾きを修正することで、建築の美しさを強調しました。
- 動きの追加 クライアントの撮影した素材には、静的なシーンが多く、動画としての動的な魅力が欠けていました。そこで、編集時にスローズームやパン(カメラの水平移動)を追加し、静的なカットに動きをつけることで、より動的な印象を与えるようにしました。
- 色彩の調整 光量が足りなかったり、色温度が適切でないシーンがあったため、全体の色調を調整し、建物本来の素材感や色味を再現することに注力しました。特にコンクリートや木材、ガラスの質感を強調するように、部分ごとにカラーバランスを調整しました。
クライアントの反応と評価
完成した動画を納品した際、クライアントは建築の空気感と空間の流れを表現できていたので満足していただけました。
反省点と学び
今回のケースを通じて、初めて自分が撮影していない映像を編集することで、多くの学びがありました。特に感じたのは以下の点です:
- 撮影者の意図を理解することの難しさ 自分が撮影していない映像を編集する際、撮影者の意図やカメラワークの意図を読み解くことが難しく、想定外の表現になってしまうことがありました。今後、編集のみの依頼を受ける際は、より詳細なヒアリングを行い、撮影者とのコミュニケーションを密にすることが重要だと感じました。
- 編集のみの料金設定とクレジットの扱い 撮影から編集までを一貫して行う場合と、編集のみを担当する場合では、作業の負荷やクレジットの扱い方に違いが出ます。今回のケースを機に、編集のみの料金設定や、クレジット表記についても明確にする必要があると感じました。
まとめ
今回のプロジェクトは、建築動画の編集が建物の意匠を補完し、視覚的な魅力を引き出す上でいかに効果的かを実感する貴重な経験となりました。動画編集の技術と建築の理解を組み合わせ、写真では表現しきれない建物の特徴を映像で伝えることで、クライアントにより深い満足感を提供できたことを嬉しく思います。
これからも建築の魅力を最大限に伝えるための編集技術を磨き、写真と動画の相乗効果を活用した表現を追求していきたいと考えています。