プロローグ
歴史的建造物を撮影するときには当然、その建物が持つ長い歴史と物語に思いを馳せます。これらの建造物は時代を超えて今に伝えられた文化や技術の結晶であり、それを写真でどれだけ表現できるかがいつも課題です。建物そのものが語る物語をどれだけ写真に込められるか、常にあるその課題に真摯に向き合うことで、少しずつ建物の魅力を引き出せるようになってくると思っています。
歴史的な価値を捉えるために
土門拳さんの室生寺は歴史的建造物を撮るためのお手本にしています。
その上でまず歴史的建造物を撮影する際には、その建物が持つ背景や歴史を理解することが重要です。私は撮影前にできる限りその建物についてリサーチを行い、建築様式や建築家の意図、そして建物が持つ文化的・歴史的な意味・背景を把握するようにしています。この事前準備がただ美しい写真を撮るだけでなく、その建物の本質を捉える写真を撮るための基盤となります。
たとえば、ゴシック様式の教会を撮影する際には、尖塔やステンドグラス、そして天井の高さを強調する構図を意識します。それは、当時の人々が感じたであろう神聖さや威厳を写真に込めるためです。一方で、古い町並みや城郭を撮影する際には、その場所が過去にどのように使われ、人々がどのような生活をしていたのかを想像しながら撮影することで、建物が持つ人間味や温もりを写真に表現するよう心がけています。
一点難しいなと感じることがあります。それはリサーチをおこなえばおこなう程、ロケハンをすればするほど知識や意図を得ていくかわりに新鮮さが失われていきます。第一印象で撮影することは大切なことだと感じているので、そのバランスを取ることは毎度難しいなと感じています。
時間と光
歴史的建造物の撮影では、時間帯や光の使い方が非常に重要です。私が特に意識しているのは、早朝や夕暮れ時の柔らかい光です。これらの時間帯は、建物に温かみや深みを与え、まるで時間が止まったかのような雰囲気を作り出します。このマジックアワーに撮影することで、建物が持つ古さや歴史の重みを強調することができます。また歴史的建造物は陰影が強く出るヴォリュームをしていることが多く、直射がない時間帯の方が写真として表現しやすいという考えもあります。
また、曇りの日や霧が立ち込める朝など、天候によっては独特の雰囲気が生まれます。こうした気象条件は、建物にミステリアスな印象を与え、過去と現在が交錯するような時間の流れを写真に感じさせることができると考えています。
ディテールに込められた物語
歴史的建造物はそのディテールにこそ建築家のこだわりや時代の技術が凝縮されています。細部にこだわった写真を撮ることを大切にしています。たとえば、古い石畳や木造の梁、手彫りの彫刻など、その建物が長い年月を経てきた証拠をしっかりと捉えたいと思っています。これらのディテールが建物のストーリーをより深く、そして感動的に伝えるための要素だと感じるからです。
まとめ
歴史的建造物を撮影する際には、建物が持つ背景や歴史を理解し、その価値を写真でどう表現するかが重要です。時間帯や光の使い方、そしてディテールへのこだわりが、建物の持つ魅力を最大限に引き出すカギとなります。これからも、歴史的建造物の撮影を通じて、その場が持つ物語を一枚の写真に凝縮することを目指していきたいと思います。