プロローグ
歴史上最初の建築写真は、1825年ニエプスの窓から外を撮影した写真と言えます。(上写真)
そこから建築写真は進化し続け、建物の美しさや機能を伝えるための重要な手段として長い歴史を持っています。時代とともに技術が進化し、表現の方法も多様化してきました。この記事では、建築写真の歴史を振り返り、その技術の進化と表現の変遷を探ります。
初期の建築写真:記録としての役割
建築写真の歴史は、19世紀初頭にまでさかのぼります。当時、写真は主に建築物の記録として使用されていました。写真技術がまだ発展途上であったため、撮影は非常に時間がかかり、被写体となる建物は静的で動かないものが選ばれることが一般的でした。これらの写真は、建築物の詳細な記録を残すために撮影され、主に建築家や歴史家のための資料として使用されました。
技術の進化とともに
20世紀に入ると、写真技術は大きく進化します。カメラの小型化やフィルムの感度向上により、撮影がより容易になり、建築写真もその表現の幅を広げていきました。特に1920年代から1930年代にかけて、モダニズムの建築運動とともに、建築写真は芸術的な表現手段としても認識されるようになりました。
この時期、建築写真家たちは建物の幾何学的な形状や光と影の対比を強調することで、建築の美しさを引き出すことに注力しました。彼らは新しい視点や大胆な構図を試み、建物のデザイン意図をより深く表現する手法を開発しました。
建築をモチーフとして捉えた写真家
日本では石元泰博さんや細江英公さん有名です。石元さんは日本とアメリカで活動し、建築の幾何学的な美しさや空間の構成に焦点を当てた作品を多く残しました。丹下健三設計の「広島平和記念公園」や「東京カテドラル聖マリア大聖堂」でも撮影で知られています。細江さんはガウディのサクラダファミリアが個人的に印象的です。
海外ではベッヒャー夫妻の貯水塔シリーズが頭に浮かびます。またファッション写真の巨匠のヘルムート・ニュートンは背景に建築空間を取り入れ、建築も含め写真作品として魅せています。
建築を独自の目線で捉えた建築写真家
言わずもがな、二川幸雄さんが一番に名前が上がります。美しいかどうかは自分で決めるとGAを立ち上げた二川さんのヒストリーは、引き込まれるものが多く人間性が魅力的なことも伝わってきます。他にも原直久さんやもちろん渡辺義雄さんなど素晴らしい建築写真家が多く、建築は様々な写真家に撮影されてきました。
デジタル革命と新しい表現手法
1990年代以降、デジタル技術の普及により、建築写真はさらに進化を遂げます。デジタルカメラの登場により、撮影の自由度が大幅に向上し、写真の編集や加工が容易になりました。この時代から、建築写真は単なる記録を超え、より芸術的な表現や商業的な用途にも広く活用されるようになります。
デジタル技術は、建物の微細なディテールや色彩を忠実に再現することを可能にし、建築写真家は建物の美しさや機能性をより精緻に伝えることができるようになりました。また、コンピューターによる編集技術の進化により、写真に対するクリエイティブなアプローチも多様化しました。たとえば、HDR(ハイダイナミックレンジ)技術を使用して、光の範囲を広げ、リアルな視覚体験を再現することが可能になりました。
現代の建築写真:リアリズムとアートの融合
今日の建築写真は、リアリズムとアートの融合が特徴です。建物の形状や構造を正確に捉えるだけでなく、写真を通じて建物の物語や設計意図を伝えることが求められています。建築写真家たちは、光と影、色彩、構図を巧みに操り、建物の美しさだけでなく、その場所に宿る精神や文化的背景をも表現します。
また、建築写真は単に建物を記録するだけでなく、見る人に感動や新たな視点を提供することが重要視されています。これにより、建築写真はますます多様な表現方法を取り入れ、建物そのものだけでなく、その周囲の環境や空間との関係性をも深く掘り下げるアプローチが増えています。
リアリズムとアートの融合の背景
建築写真、一般的に従来の撮影は竣工写真という分野で一番多く撮影されていました。建築が完成してその記録として撮影し、設計者や施工会社、オーナーなどがアーカイブとしての役割で記録していたのですが、現在は竣工写真の役割は大きく変わってきています。
デジタル化が完了しつつあり誰しもが発信者となれる現在、竣工写真は広告写真の要素を強くしています。認知・集客・ブランディングなど伝えるための写真として撮影されています。情報に埋もれないよう独自の立ち位置を求めたクライアントが多く、品質・オリジナリティー・多様性など多くの効果を発揮する写真を提供していく撮影アプローチが必要不可欠になり、写真家は表現の幅を広げる時代に突入しています。それに伴い、ドローンや動画などの技術発展が建築表現を広くしてき、建築だけを捉えた写真を越えて、ストーリーや背景、風土なども伝える要素の一つとなっていきています。
まとめ
建築写真の歴史は、技術の進化とともに変遷し、その表現方法も多様化してきました。初期の記録としての役割から、芸術的な表現手段へと発展し、デジタル技術の登場によってさらに表現の幅が広がりました。現代の建築写真は、リアリズムとアートが融合し、建物の物語や文化的背景などを含め伝える重要なメディアとなっています。これからも建築写真は進化し続け、新たな表現方法を模索していきたいと思います。