プロローグ
建築写真は、建物の美しさや機能性を視覚的に伝えるだけでなく、その背後にある風土や物語、デザインの意図、建築の面白さを引き出す力を持っています。この記事では、建築写真を通じて感じられる建築の面白さと難しさについて考察します。
1. 建築のおもしろさ
外観
建築物の外観は、その建物の最初の印象を決定づける言わば「顔」です。独特な形状や斬新な意匠、素材の使い方によって、建築物は周囲の環境に対してどのように調和し、または際立つかを示します。建築写真には常に印象的な要素と説明的な要素のバランスが求められます。例えば、ガウディのサグラダ・ファミリアや、フランク・ロイド・ライトの落水荘など、建築物の独自性が強く表れつつも「ここからアプローチするんだ」とか「周辺はこんな土地なんだ」などの機能的側面もあります。建築はどんなものでも周辺環境に影響を及ぼすおもしろさがあります。そして少し先の未来を感じさる新しい建築を見ることができる写真は最高だなと思います。
空間
内部空間の写真は、意匠の核心が現れていると思います。建築の空間設計は、建物内での体験を設計しています。広がり、狭さ、高さ、奥行きなどの空間的スケール的の特徴から、家具、開口部、照明、素材など写真を通じて空間の面白さを捉えることで、建物内部の独特な雰囲気や体験を視覚的に伝えることができます。
例えば、ル・コルビュジエのヴィラ・サヴォアでは、自由な空間配置が実現されており、その開放感と連続性が建築の一部として強調されます。また、ザハ・ハディッドのMAXXI国立21世紀美術館では、流れるような曲線と大胆な空間構成が訪れる人々に驚きと感動を与えます。これらの空間の面白さは、写真を通じてその魅力を捉え、こんな風に見えるんだ。と視覚的に伝えることで初めて理解されることが多いです。他にも西沢立衛さんの森山邸は写真で表現することが大変難しい。是非一度足を運んでみるべき建築のひとつです。
マテリアル
建築のおもしろさのひとつは、マテリアルとマテリアルの組み合わせだと思います。素材は、その質感や色彩、耐久性に直接影響を与えます。木材、コンクリート、ガラス、金属など、さまざまな素材がどのように使われているかを見ることで、建物のデザインの深みを理解することができます。撮影をすると様々なマテリアルが否が応でも入ってきます。それを取捨選択し情報を整えている写真を見れば、空間の繋がりや仕切り、使われ方の違いなどが読み取れます。例えば、木材の温かみやコンクリートの冷たさ、ガラスの透明感など、素材ごとの特性を強調する写真は、建物の意匠の考え方や、表情の豊かさを感じることができます。
2. 建築の難しさ
都市と地方
建築は、都市と地方という異なる環境において、それぞれ独自の挑戦を伴います。都市では、限られた空間での高密度な建築や、既存のインフラとの調和が求められます。一方、地方では都市のような厳密なインフラの調和は求められませんが、自然環境との調和や地域の文化を反映したデザインが求められがちです。ドローンで撮影するとわかりやすいのですが、調和か主張か。建築の性格が見て取れます。当然インフラ的に見れば都市であろうと地方であろうと合理的に調和がとれています。その上での建ち方です。
建築と土木
建築と土木は、いずれも空間・場・領域を作り出す仕事ですが、そのアプローチや目的は異なります。建築は人々の生活や活動の場を提供することに焦点を当てているのに対し、土木はインフラの整備や環境の保全などを目的としています。そのため、建築と土木の設計・施工会社の考え方が全く違う部分があります。その境界線を感じさせないもの、調和が取れているものは、お互いのリスペクト、経験の深さを感じます。写真を通じて建築と土木の違いを視覚的に示すことは、それぞれの分野の役割や重要性を理解することに繋がると考えています。
素材と素材
建築における素材の選定は、その建物の性能や美しさに大きな影響を与えます。しかし、異なる素材を組み合わせる際には、組み合わせのおもしろさの裏側にそれぞれの特性や相性を考慮しなければならない難しさがあります。マテリアルの選定は「納まり」という永遠のテーマの一部であり、異なる素材がどのように組み合わされているか、どのような効果を生み出しているかを視覚的に示すことで、素材選定の難しさとその結果を理解することができます。
まとめ
建築写真は、建物の美しさや機能性を視覚的に伝える強力なツールであり、建築の面白さと難しさを引き出す力を持っています。外観、空間、マテリアルなど、建物のあらゆる側面を捉えることで、建築の魅力をより深く理解し、共有することができます。私自身、建築写真を通じて建物の魅力を最大限に引き出すことを心がけています。