建築写真には同じ敷地条件や同じ建築は存在しないので、スタジオのような完璧な光のコントロールができないなどの理由から、あまり再現性が高くない場合が多いです。
だからこそ、構図には「正解」ではなく、「選択」が必要になります。
今回は、私たちが実際の現場で、どんな構図の選択をしているのか。
三分割法や黄金分割といった基本の考え方を踏まえながら、建築写真における構図の考え方をお話ししていきます。
1. 基本は三分割法や黄金分割:構図は“整える技術”
建築写真において最もよく用いられるのが、「三分割法」や「黄金分割」です。
これは画面を縦横それぞれ3分割し、交点に主要な被写体や線を配置することで、視線の流れを自然に誘導し、落ち着いた印象を与える構図です。
黄金分割は、より人間の“美しさを感じる比率”に近づけたもの。ファサードのバランスや空間の抜け感を強調したいときに、非常に効果的です。
ただし、これらは“整えるための基本”。
写真の型として必須ですが、すべてをこの法則に当てはめてしまうと、
個々の建築の持つクセや魅力が薄れてしまう危険もあります。
2. 外観写真:建築と空と地面の比率
外観写真を撮るとき、よく考えるのが「空・建物・地面」のバランスです。
たとえば重厚感のある建築であれば、空をやや多めに入れて“重心の低さ”を強調する。
反対に、スカイラインを活かした軽やかな建築なら、空を控えめにして建物の“浮遊感”を活かす、そんな選択をします。
地面をどれだけ写すかも、建物の設計意図に応じて変えます。
アプローチの設計が緻密なら、その“迎え入れる導線”を写し込む。
逆に、エントランスがあえて曖昧な構成なら、空との対比を意識して全体を“浮かせる”。
大事なのは「比率に意味がある」こと。
“空が多い写真”は、ただの空ではなく、“建物を軽く見せる余白”として機能させています。
3. 屋内写真:床と壁と天井の関係性
屋内写真では、「床・壁・天井」の三要素の比率が構図の主役です。
天井高や天井装飾、照明などを感じてもらいたい場合、視線を低く構えて床面を少なく。
反対に、床材の素材感や動線を強調したい場合は、床の面積を多めにとって、空間に“流れ”を作る。
壁を見てほしい時は当然、床や天井は少なくなります。
また外観内観含め基本の分割法が活躍しますが、大事なことは消失点を画面の中心に持ってこないこと。
4. あえて三分割を崩す:違和感という“問いかけ”
最後に、あえて構図を崩すことについてお話しします。
例えば、正対した構図の中心から建物をはずす。
あるいは、正対に近い振りの構図にする。
見せたくないものが構図の目立つところにある場合、そこからはずす。
こうした構図は三分割法のような安定からは外れていますが、そのぶん強いメッセージ性が生まれまたり、逆に弱めたりできます。
空間の緊張感や、設計者の「反骨精神」のようなものが、逆に浮かび上がってくることもある。
写真は、見せるものであり、問いかけるものでもあります。
だから、すべてを整えすぎず、設計の“揺らぎ”を伝える構図もまた、必要だと思うのです。
まとめ:構図は、建築を翻訳するための言語
建築写真の構図は、ただの“見栄え”ではありません。
設計者の意図や、空間の個性を、写真という静止したメディアで“翻訳”するための言語です。
整える。崩す。寄せる。抜く。
そのすべてに理由があるからこそ、建築写真は建築を語る力を持ちます。
構図とは、建築を正しく、そして美しく伝えるための“選択の連続”なのです。