プロローグ
建築写真の醍醐味の一つは、建物のスケール感や奥行きを写真にどう落とし込むかという点にあります。その中でも「パースペクティブ」は非常に重要な要素です。パースペクティブを巧みに取り入れることで、建物の高さ、深さ、広がりといった空間的な特性を視覚的に表現することができます。
この記事では建築写真におけるパースペクティブの役割と、それを最大限に活かす撮影テクニックについて掘り下げていきます。
パースペクティブとは
パースペクティブ(遠近法)とは、平面的な写真や絵画で立体感や奥行きを表現する技法です。建築写真では建物の形状や構造をリアルに伝えるためにこの技法が活用されます。特に高層ビルや広大な空間の撮影において、パースペクティブは建物の迫力を伝えるための重要な要素です。
そして建築写真にはシフトレンズが必須です。建築写真は基本的に水平垂直が固定されているため、アングルの自由度が制限されている状態なのでシフトレンズで使用するパースコントロール技術が必要不可欠になります。この技術を使うことで基本となる建築写真が撮影できることができます。
1. 消失点と遠近感
パースペクティブの基本は、「消失点」に向かって物体が小さくなる現象を利用して、奥行きを表現することです。建築写真では長い廊下や道路、ビル群の撮影でこの効果を強調することが多いです。例えば広場の向こうにある建物が消失点に向かって縮んでいく様子をフレームに収めることで、空間の広がりを強調できます。
2. 低いアングルからの撮影
建物の高さや壮大さを伝えるためには低いアングルからの撮影が効果的です。見上げるような角度から撮ることで、ビルやモニュメントがより大きく、圧倒的な存在感を持つように感じられます。この技法は特に高層ビルや塔の撮影で使われます。
3. パースをコントロールする
広角レンズを使った撮影では特にパースペクティブが発生しやすいです。これは建物が中央から外側に向かって傾くように見える現象で、場合によっては不自然に感じられることがあります。しかしこのパースをあえて強調することで独特のダイナミズムを生み出すことも可能です。例えば前景に建物の一部を大胆に配置し、遠くに消えていくような構図を作ることで、視覚的にインパクトのある写真を撮影できます。
パースペクティブを活かした撮影
1. 広角レンズの使い方
広角レンズは狭い空間でも全体をフレームに収めることができ、また建物のスケール感を強調するために非常に有効です。ただし広角レンズはパースの歪みが顕著になるため、被写体の配置やアングルに細心の注意が必要です。特に建物の垂直線を意識することで、パースを抑えるか、あえて強調するかの選択ができます。
2. 望遠レンズでの圧縮効果
パースペクティブの逆を利用する技法として、「圧縮効果」があります。望遠レンズを使うことで、前景と背景の距離感を圧縮し、建物の一部を強調しつつ、全体のスケールを維持することができます。例えば、ビル群の中から一つの建物を切り取る際、望遠レンズを使って背景の建物を圧縮することで、より迫力のある構図が作り出されます。
3. 水平線を意識した構図
水平線や地平線はパースペクティブを活かした構図において非常に重要です。特に都市部では建物の水平線や道路のラインが視覚的に奥行きを示すリーディングラインとなります。これらのラインを上手く活用することで見る人の視線を建物の重要な部分へ導き、構図全体に秩序を与えることができます。
パースペクティブと建築のデザイン意図
建築家が意図して設計した建物のパースやラインを尊重することは建築写真において非常に重要です。建物の形状や配置が持つ意味やデザインの意図を理解し、その意図を最大限に引き出すためにパースペクティブを活用します。例えば斬新なデザインの建物を撮影する際には、パースを強調してそのユニークな形状を際立たせることで、建築家の意図を視覚的に伝えることができます。
まとめ
建築写真におけるパースペクティブの表現は、建物のスケール感や空間の広がりを伝える上で欠かせない技術です。消失点や遠近感、広角レンズの使い方など、さまざまなテクニックを駆使して、建物の壮大さや美しさを引き出すことができます。これからもパースペクティブを意識し、建物の魅力を最大限に伝える写真を撮り続けていきたいと思います。
余談
建築写真はSNSによって店舗や住宅、商業施設や宿泊施設などがあること認知してもらうことができるようになりました。建築業界でいうと、建築関係の雑誌や賞の受賞が建築を伝えるために強い認知効果を発揮しています。そして広告の要素を強く持ち、魅力を伝えるために建築業界に響く写真と集客に効果を発揮する写真が混ざって新しいかたちになってきていると思います。
僕はどちらにも効果的な写真がもっとあるのではないか?と思っています。
現在いくつかの記事で構図について書いているのは、それぞれにより効果のある写真をつくるために考えていることの一部です。写真は見たままを素直に伝える部分と少し違う世界に連れて行ってくれる部分があるので、そのふたつを混ぜた写真を撮ることができると、どちらにも効果のある写真が出来上がる気がしています。個人的には基本的な撮影時間帯、使用するレンズを再考慮し、あとはクライアントの意見をあまり聞かない少しの勇気が必要なのかなと感じています。建築を見すぎると何が良いのかよくわからなくなるという状態から抜け出せるのは建築写真を撮る人だけな気がします。